週明け15日の日経平均株価が史上3番目の下げ幅を記録するなど、東日本大震災が日本経済に与える甚大な影響が徐々に予想される中、実体のない心因的な理由で、さらに日本経済の停滞を加速させてはならない。過度な自粛ムードは、その典型といえよう。
また、東京電力圏・東北電力圏以外で節電しても、わずかな電力しか被災地や首都圏に送れない ことは、かなり多くの方に理解いただけたようだが、そのうえで「節電すべきか」という問題は、ある程度の前提条件を共有しなければ議論にすらならないので、ぜひ理解していただきたい。
まず、電力は貯められないということの確認が必要だ。わが国のエネルギー行政の長である海江田経産相ですら、首都圏の電力がどのように不足するかを理解していなかった のだから、一般の国民が正確に理解できないのも無理はない。この点は井上晃宏さんの記事 がわかりやすいのだが、要するに電力は貯められないのだから、電力会社としては、需要のピーク時にそれ以上の電力を発電する必要がある。今回、東電地域ではピーク時に4,100万キロワット必要な電力が「リアルタイムで」1,000万キロワット不足することが問題なのであり、ピーク時以外の時間帯は、実は供給に問題がない。しかし、ピーク時も他の電力会社から電力の融通が受けられない以上、輪番停電(計画停電)でしのぐしかないというのが現状だ。また、東電地域でピーク時以外の時間帯で節電しても、ピーク時の需要に充当することはできない

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リアルタイムで発電しなければならないという特性は、電力会社に対し、ピーク時の需要に合わせた発電施設の所持を要求する。時間帯ごとの電力需要は、グラフ(デフォルメしてあるが)が示すとおり、かなり上下幅がある。しかし、水力と原子力は、発電能力の調整が困難なので、火力発電その他の出力調整で、需要に対する供給電力を調整している。それでも深夜〜未明は電力が余剰になるので、電力でダムに水を引き上げ(揚水用動力)、ピーク時の発電に利用している。電力会社が深夜電力を売りたがるのも、ピーク時と非ピーク時の電力需要を平準化したい からだ。
ところで、北海道電力は節電を呼びかけていないにもかかわらず、すすきののネオンが消された 。上図でわかるとおり、繁華街のネオンは、電力会社にとっては、非ピーク時の電力を利用してくれる優良顧客なのだが、節電を求める世論に過度に神経質になっての対応なのだろう。ただでさえ自粛ムードで客足が遠のいている繁華街にとって、より深刻なダメージになることが懸念される。

そして、「それでも節電する」という動機には、いくつかのパターンがあることがわかった。

①蓄電が可能と誤解している(主に東電圏、少数)
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エネループ等の蓄電池が普及したせいか、電力は貯められると誤解している類型。しかし、何百万キロワット時の電力を貯められるような蓄電池は、研究が進んではいるが、現在のところ技術的・コスト的に実用化が困難だ。

②節電により、発電所の燃料を被災地に融通できると考えている
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被災地や避難所で燃料が不足しているとの報道があり誤解を生むが、その原因の多くは物流の問題であり、 現在のところ、日本全体の発電用燃料の調達には問題がない(国家備蓄、民間備蓄もある)。
また、被災地の発電所は、燃料不足ではなく設備の破損や震災による自動停止で供給を停止しているのであり、燃料不足が原因ではない。

③節電により軽減される電気料金を寄付したい
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この類型がいちばん多いようだし、もちろん一時的には実現可能だ。 しかし、電力供給設備を持て余した電力会社は、その維持費を利用者に転嫁するしかなく、電気料金が上がる(但し、経産省の認可が必要)。ゆえに、利用者が差額を寄付することもできなくなる。また、電力会社の利益が下がり、税収が減少するので、歳出から復興に充てられる資金も減少する。

また今回、かねてからのエコブーム(=節電は是)という常識の中、そもそも複雑な電力会社の立場は、今般の震災でさらに複雑になった。北海道電力広報のコメント からも、苦しい表現が目立つ。

非常に言い方が難しいが、北海道の世帯が今節電をしてもこの供給電力量が増えるということはない。しかし、だからといって『節電を勧めない』と言っているわけではもちろんない。節電自体は悪いことではないし、この事態に関わらず電力の無駄使いをしないような働きかけというものは今までも継続的にお願いしている。

電力会社は、本音では、ピーク時間帯以外はたくさん電気を使ってほしい。彼らにとって唯一の自社商品なのだから、当然だ。しかし、エコブームもあり、大々的にエネルギー利用を広告するわけには行かないし、「ピーク時以外だけ使ってください」というのも虫が良すぎるので、言えない。また、今般の震災では、融通できる電力は限られており域内での電力供給には問題がない(例:北電の供給能力は741万kW、過去最高の需要は578万kW)にも関わらず、世論を支配する「不謹慎」ムードのため、「いつもどおり使ってください」とは言えない。聞いたところによると、札幌のコンビニエンスストアですら照明を半分にするなどの対応をしているという。明らかに世論への過剰な反応だ。

筆者は何も、今まで以上に無駄な電力を浪費せよと言いたいのではない。明らかに無駄な電力は使わないことも良いだろう。しかし、一次エネルギーの44%を電力に頼っている日本の産業構造上、電力を使わなければ、それは確実にGDPを押し下げることを意味する。一般の国民が復興に協力できるのは、現実的には献血や寄付しかない。そして、非被災地の我々は、きちんと市場のカネを巡らせ、日本経済を維持する義務がある。エネルギー消費なしにそれをやり遂げるのは不可能だ。被災地の早期復興を祈りつつ、感謝して、今までどおり電力を使わせてもらい、誠実に働いて、日本経済を支えよう。


<この記事は、拙ブログ にも同じ内容で掲載しています。ご了承ください。>

(原 悟克)